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【特別対談】「『女性問題』なる問題」日本フェムテック協会理事 鈴木市川美和氏との対談

佐藤:行政協働研究所代表 佐藤幸俊
鈴木:日本フェムテック協会理事 鈴木市川美和氏


佐藤:全国1,741市町村の中で女性が首長なのはわずか62自治体(令和6923日現在)です。全体の3.6%未満というのは、わずかという表現に違和感がないと言えるかと思います。

鈴木:おっしゃるとおりです。地方議会で女性の議員の占める割合は14%(2021年末現在)です。2003年に7.4%だったことを考えると、約20年で倍増したとも言えますが、いずれにせよ少な過ぎることには変わりありません。世界経済フォーラムが発表しているジェンダー・ギャップ指数でも146か国中125位と、むしろ「極めて低い」と言った方が適切なのではないでしょうか。

佐藤:そのことについて考えようとする時に、いつも一瞬立ち止まってしまうことがあるんです。社会課題について「教育問題」「環境問題」といったような言い方をしますよね。「問題」とは、何を問題とするかによって生じるものだと思います。つまり、〈それは問題なのか、あるいは問題ではないのか〉という選択によって、「問題」は生じたり生じなかったりするということです。

鈴木:何を問題と捉えるか、その認識の違いが問題の有無を決定する、ということですよね。問題そのものが独立して客観的に存在しているのではなく、ある程度主観的な判断や社会の認識によって「問題」となる、そういう視点はあると思います。

佐藤:だとしたならば、「女性問題」と言うから問題化しているんじゃないかという、不安というか疑念のようなものが頭をよぎって逡巡する感じがするんです。

鈴木:それはどうでしょう。おっしゃるように、ある状況や事象が「問題」とされるかどうかは、その事象をどのように認識し、どの観点から評価するかに依存するとは言えると思います。

ただ、だからといって現実に存在している状況や事象が無くなるわけではありませんよね。むしろ、特定の社会現象が一部の人にとっては問題だと感じられる一方で、他の人々にとっては「問題」とは認識されない、それこそが根本的な問題だという理解が重要だと思います。

たとえば「女性の解放」という事象について考えてみましょう。かつての社会では、女性の社会的役割は家庭に限定され、政治や経済における権利を持たないことが一般的でした。しかし、その時代の価値観においては、それが「問題」として認識されないことが多く、一部の人々にとっては当然の状態とされていました。女性自身もその役割を受け入れていた場合、社会的な「問題」として浮上しにくかったわけです。(歴史的な文脈)

しかし、19世紀後半から20世紀にかけて、女性の権利拡大や平等を求める声が高まり、社会全体で「女性の抑圧」が問題として認識され始めました。つまり、何が問題であるかという社会の認識の変化が、女性解放運動を加速させたのです。この段階では、「女性が政治的・経済的・社会的に不平等であること」が明確な「問題」として浮上し、解決が求められるようになりました。(認識の変化による問題の発生)

佐藤:なるほど。よくわかります。「認識の違い」が実態から目を逸らす弁解になってしまう危険性ということだと思います。それは重要なご指摘です。私が気になっているのは、何問題と言えば適切なのだろうということなんだと思います。事態を総合的に理解するために、どういう表現がふさわしいでしょう。

鈴木:「女性問題」という言い方は、あたかも女性だけに関連する問題のように聞こえることがあります。また「問題」という言葉自体が、女性が社会の中で受動的な存在として捉えられている印象を与える可能性があります。

こうしたことから現代では、国際的な組織、例えば国連や国際NGOでは、「女性の権利」や「ジェンダー平等」といったフレーズが一般的です。特に「ジェンダー平等(gender equality)」という言葉は、全世界的な目標として多くの人々や国々に広く支持されています。

佐藤:やはり「女性問題」という表現には違和感があるということですね。

鈴木:「女性問題」というアプローチは、歴史的には女性の権利向上や不平等是正のために重要な役割を果たしてきましたが、現代においてはその表現に対して批判的な意見もあります。より包括的で積極的な「ジェンダー問題」という言い方の方が社会的に広く受け入れられています。

佐藤:なるほど。ただ「ジェンダー問題」となると、女性の社会進出や社会での活躍を促進するという意味合いが薄まるような気がするんですよね。

鈴木:確かに「ジェンダー問題」と言うと、女性の社会進出や活躍の促進という側面が後退したかのように受け取る人もいると思います。

佐藤:「ジェンダー」という言葉は、より広範囲の性別やアイデンティティを包括し、男性、女性、非バイナリー、LGBTQ+など、多様な性別や性自認に関わる問題全般を指すため、焦点が分散してしまう。

鈴木:はい。女性特有の課題(賃金格差、性別による昇進の壁、職場でのハラスメントなど)が、他のジェンダーに関する問題に埋もれてしまうのではないかと懸念する声もあります。

 ただもちろん、「ジェンダー問題」の枠組みの中で、女性の権利や社会進出を特に強調することは可能です。多様な性別の権利を守ることと、女性特有の課題に取り組むことは対立するものではなく、互いに補完し合う関係ですから。

佐藤:だとすると…

鈴木:適切な文脈や目的に応じて「ジェンダー問題」と「女性の権利向上」を使い分けることです。当たり前のことを言っているようですが、こうしたことに留意することが、問題について語り合う際には大切なことです。意識的にもあるいは無意識にでも、問題のすり替えは容易に起こりますから。「神は細部に宿る」です。

佐藤:こうした議論は一見言葉遊びにように見えるかもしれませんが、何かを考える場合、「射程」というのが重要だと思うんです。物騒なたとえですが、ライフル銃と拳銃では撃つ対象(獲物)が違います。概念という道具を十分に使いこなすには、対象ごとに適切に使い分ける必要があります。何の問題について話しているのかを的確に表現することは、議論が空回りしないようるにするためのキモだと思います。

令和6年度「女性活躍推進」支援への取組

ジェントル・リレーション研究の一環として、アカデミア・ミネルヴァと連携し、女性活躍推進を支援する事業に取り組んでいきます。



「ジェントル・リレーション」の取り組み

ジェントル・リレーション
 人同士が違いを越えて尊重し合える〈フラットな関係〉の社会をめざします

私たちは今、これまでのやり方では対応が困難なさまざまな課題に直面しています。 もはや〝圧〟で事態を押し切ろうとする、従来の〝力〟では、どんな課題も解決できなくなっている社会状況が明らかになってきています。こうした時代へ向き合うために「ジェントル・リレーション」という関係性の実践は有効であると考えています。

地域の内と外、行政と民間、世代やジェンダーといった立場や考え方の違い。こうしたギャップを乗り越えて、「多様で持続可能な地域活性」を実現するために、〝圧〟ではなく、分かり合うための共感を育てるコミュニケーションを促進する。それにより、地域内におけるイノベーションの可能性を高め、地域課題への対応策を産み出すケアに取り組んでいます。

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